第3話【エスタロンモカ】18歳の私
テレビ会社で働きはじめて1年後。
体に異変が起きた。
この日は、最長記録の40時間連続勤務だった。
眠気で気を失わないよう常にカフェイン剤のエスタロンモカを摂取していた。
エスタロンモカとは、カフェインが大脳皮質に作用して、眠気を取り除く薬。
飲んでから30分〜1時間で効果を発揮する。
脳が覚醒し、眠気や疲れなんて感じなくなる。効果が切れると恐ろしいほどの倦怠感に襲われる。
連続服用は、もちろんしてはいけない…が、
私は40時間寝ずにいることが耐えられずこの日は、大量に服用していた。
次の現場へ向かう途中、異変は起きた。
突然、呼吸をしても酸素を取り入れる事が出来なくなった。疲れのせいだ…と落ち着いて深呼吸をするが、苦しい。
どうやら酸素が体に行き渡っていないのは気のせいではなかったようだ。
身体中が痺れてきた。椅子に座っているのに立ちくらみのように、頭がクラクラする。
周囲の音が聞こえなくなり、自分の息苦しい、篭ったような呼吸音だけが聞こえる。
気を失いそうになる中、私は思った。
ここで倒れて、電車を遅延させたくない!!
出来損ないの私を採用して雇ってくれた会社。それなのに仕事場で立たずで迷惑かけている。だからこれ以上、世の中の人に迷惑をかけたくなかったのだ。
私はなんとか耐えて、駅のホームを降りた。
薬の副作用を薄めるために、よろよろと自販機に向かい、水を買い大量に飲んだ。
しばらくして、呼吸が安定。
…私何してるんだろうな。
目指しているのは、こんな人生じゃないはずなのに。
ー私はどんな人生を歩みたかったんたんだろうか
次の現場に向かう気力もなく、
私は駅のホームのベンチで、空の見えない地下鉄の天井をぼーっと、眺めていた。
つづく
次回
第4話「野生のスライムがあらわれた!」