第8話「覆される真実と現実」
施設出身なんて知られたら世間からバカにされるのに、施設出身とわざわざ自分から名乗るなんて、一体どんな人なんだ?
私は、そんな登壇者に興味をそそられた。
普段から出会わない児童養護施設出身者に会う好奇心でいっぱいだった。
登壇者の名は、川瀬信一。※
川瀬 信一(かわせ しんいち)
※1988年千葉県生まれ。幼少期、ゴミだらけの家で親から虐待を受けながら育つ。中高校時代、里親家庭、児童自立支援施設、児童養護施設で過ごす。高校卒業後、千葉大学・同大学院、慶応義塾大学福澤諭吉記念文明塾を経て、中学校教員。2015年より、自身が過ごした児童自立支援施設に勤務。
イベント当日。早めに受付を済ませ、資料を受け取り1番前のど真ん中の席に座った。
まだ、時間はあるー
私は資料に目を通し始めた。
「!?」
衝撃が走る。
目の前には、児童養護施設を自立するために必要な進学情報があった。
進学のために働き、勉強して学内上位の成績をキープして来た高校三年間。それなのに、施設職員の「ダメ。」の一言で絶たれた進学。。
施設職員にも理由はあったにしろ、
私の人生だ。私が決める権利がある。
誰かが言っていた。
人には失敗する権利があると。
施設職員を責めるわけじゃないけど、やらなきゃわからない進学を頭ごなしから、否定されたあの時の悔しさを思い出した。
施設職員に反対された進学。が強すぎて、目の前の進学に向けたチラシを受け止めきれなかった。
と、フリーズしている間に、イベントが始まった。
司会者が、イベント概要を説明したのち
登壇者が前に出て来た。
わ、若い…。まず、第1印象はそこだった。
人前で登壇するなんて、すごい憧れる。年が近い?と感じたからか親近感が湧いた。(後で聞いたらは10歳も年上だったが笑)
登壇者の川瀬信一さんは、
自身の生い立ちを堂々と語っていた。
彼は、なぜ不特定多数の会場で生い立ちを話すのか。それは講演の最後で分かった。
「児童養護施設退所者の声がない。それによって、偏った情報が世間に出てしまう。結果、偏った支援になってしまう。そのために、自らが声を上げている」
彼の講演を聞いて、そう解釈した。
テレビでも世間でも、かわいそうのレッテルを貼られる児童養護施設の経験がこんなにも貴重に感じたのは初めてだった。
なによりも、施設出身ってことをわざわざいう必要もないけど、誤魔化したり隠したりしなくていいんだ!という事が1番嬉しかった。
隠して、ずっと生きていかないといけないと思っていた私にとっては、荷が下りた感覚だった。
この講演会をきっかけに私は、心を動かされた。
まず、川瀬さんのお話で施設出身というのは、1つの生き方なんだと、学んだ。
そしてもう一つ、…講演前に見た、進学のあのチラシ。
あの時、そう高校生の時、進学できることを知っていれば、ケアしてくれる団体の存在を知っていれば…私の選択肢はひとつじゃなかったはず。
過去の自分に教えてあげたかった。「施設出身だから進学できないとか、出来ないことなんてない。挑戦する権利はあるんだよって」
そんな情報を全部、まとめて詰め込んだ何かを作ることはできないか??
進学できなかった悔しさが、
エネルギーとなり私の身体と脳を駆け抜けた。
冒険の書を記録しますか?
▶︎はい
いいえ
冒険の書を記録しました。